滲出型加齢黄斑変性
加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration、AMD)は、50歳以上の約1%にみられ、欧米では失明原因の第1位となっています。2014年時点の全世界の加齢黄斑変性症患者数1億3,500万人のうち1,225万人が米国に居住していると推定されます(文献1)。
治療薬としては、網膜での異常な血管の新生を阻害する医薬品(VEGF阻害薬:ルセンティス®、アイリーア®など)があり、約1.5兆円の市場を形成しています。しかし、それらの既存薬は実用化から約17年経過し、臨床上の問題点が追跡調査により明らかになりました。
- 既存薬(VEGF阻害薬)では効果が得られない患者さんが相当数存在する(文献2)
- 有効とみられた患者さんも2~3年程度経過すると効果が低下し、再び失明のリスクにさらされる(文献3)
これらの要因は、病変による網膜の瘢痕化(線維化)が関与していると考えられています(文献4)。既存薬には瘢痕化を抑制する作用はありません。
FGF2(線維芽細胞増殖因子2)は血管新生及び線維化の促進作用を有します。RBM-007はFGF2を阻害するアプタマーであり、動物試験においては、網膜の血管新生と瘢痕形成を抑制することが証明されております(文献5)。
滲出型加齢黄斑変性(wet AMD)を対象にした臨床試験として、第1/2a相臨床試験(試験略称名:SUSHI試験)の実施後、RBM-007の複数回投与による臨床POC確認を目的とした第2相臨床試験(試験略称名:TOFU試験)を米国で試験を実施いたしました(被験者86名)。TOFU試験は、標準治療の抗VEGF治療歴のあるwet AMD患者を対象に、①RBM-007硝子体内注射の単剤投与群、②既存の抗VEGF薬であるアイリーア®とRBM-007の硝子体内注射による併用投与群、及び③アイリーア®硝子体内注射の単剤投与群の3群間で、RBM-007の有効性及び安全性をアイリーア®と比較評価する、無作為化二重盲検試験でした。
また、TOFU試験の進捗に基づき、長期投与に伴う本薬剤の有効性と安全性、及び瘢痕形成を含む網膜の構造異常に対する効果を評価する目的で、RBM-007を単剤で投与するオープン試験としてのTOFU試験の延長試験(試験略称名:RAMEN試験)を行いました。RAMEN試験では、TOFU試験を完了した22名の被験者に対して、追加のRBM-007の硝子体内投与を1ヶ月間隔で計4回行いました。
更に、治療歴のないwet AMD患者でのRBM-007単独治療の有効性及び安全性を評価することを目的に、米国で医師主導治験(試験略称名:TEMPURA試験、責任医師:Dr. Raj Maturi, Midwest Eye Institute, IN)が実施されました(被験者5名)。
サブグループ解析を含めた本試験の結果、RBM-007の臨床POC(Proof of Concept:研究段階で構想した薬効がヒトでも有効性を持つことの確認)が明らかとなり、これらの結果を取りまとめた2報の論文が英国王立眼科学会誌(Eye)電子版に掲載され(文献6,7)、その要点は次のとおりです。
- いずれの試験においても、 安全性に関する問題は発生しなかった。
- 治療歴のないwet AMD患者では、 劇的な治癒例を含め、視力や網膜厚の改善が確認された。
- 抗VEGF治療歴が長いwet AMD患者に対しては、 単剤または併用投与においてもアイリーアを上回る臨床有効性は観察されなかったが、病気の進行抑制が確認された。
- 抗VEGF治療歴が短いwet AMD患者に対しては、 RBM-007の効果はアイリーアに対して非劣性であった。
- 抗VEGF薬からRBM-007治療に切り替えると、若干の視力低下が観察された。
- すべての試験をつうじ、 RBM-007はすでに形成された瘢痕(線維化)を除去する作用はなかったものの、瘢痕形成を抑制する効果が確認された。
今般、RBM-007の臨床POCが確立したと同時に、RBM-007は抗VEGF薬に先立つ処方が推奨される“first-line”の治療薬となる可能性が示唆されました。今後、抗VEGF薬にはない瘢痕化抑制作用の検証も含めた未治療のwet AMD患者に対する臨床試験の実施を検討してまいります。
【米国臨床試験に関する情報】
1.TOFU試験(無作為化二重盲検試験)
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT04200248
2.RAMEN 試験(オープン試験)
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04640272
3.TEMPURA 試験(医師主導治験)
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04895293?term=NCT04895293&draw=2&rank=1
文献
- Market Scope, 2014、Community Eye Health Journal 2014年12月の資料等を基に当社にて作成。
- Ranibizumab versus verteporfin for neovascular age-related macular degeneration
- Fellow eye comparisons for 7-year outcomes in ranibizumab-treated AMD subjects from ANCHOR, MARINA,and HORIZON (SEVEN-UP Study)
- Fibrosis and diseases of the eye
- Anti-angiogenic and anti-scarring dual action of an anti-fibroblast growth factor 2 aptamer in animal models of retinal disease
- Safety and tolerability of intravitreal umedaptanib pegol (anti-FGF2) for neovascular age-related macular degeneration (nAMD): a phase 1, open label study.
- Clinical proof of concept for anti-FGF2 therapy in exudative age-related macular degeneration (nAMD): phase 2 trials in treatment-naive and anti-VEGF pretreated patients.
軟骨無形成症
軟骨無形成症は、新生児約25,000人に対して1人の発生率の希少疾患で、有効な治療薬が存在せず、Unmet Medical Needsの疾患となっており、新規な薬剤の開発が求められております。この疾患は、FGF受容体のひとつであるFGFR3におきた突然変異によって発症する、四肢短縮による低身長を主な症状とする希少疾患です。これまでに、当社は、軟骨無形成症モデルマウス(FGFR3の遺伝子を疾患変異型に人為的に改変したマウス)を用いた薬理試験において、RBM-007(国際一般名:umedaptanib pegol)は低身長改善効果、即ち、軟骨無形成症に対する本薬剤の非臨床POCを確認することに成功しております。また、軟骨無形成症患者由来のiPSC(人工多能性幹細胞)は軟骨細胞への分化が不全になっていることが知られていますが、当該iPSCを試験管内で培養する際に、RBM-007を添加することで、軟骨細胞への分化が可能となり、さらには、免疫不全マウスにこの分化細胞を移植すると、マウスの体内で軟骨組織が形成されることを証明しております(大阪大学医学部との共同研究)。これらの結果は、RBM-007が軟骨無形成症に対する新薬となりうることが強く示唆しています。
臨床試験の進捗:2021年度から3年間、AMEDの希少疾患用医薬品指定前実用化支援事業として助成を受け、ACHの小児患者(5~ 14歳)における、身長の伸びを含む臨床的基礎データの取得と第2相臨床試験の被験者選定を目的とした第2相観察試験、及びACHの小児患者(5~14歳)でのumedaptanib pegolの有効性と安全性を調べる第2相臨床試験と、これに引き続き実施する第2相長期投与試験の3つの臨床試験を実施しております。第2相観察試験(26週)に ついては、2022年11月に患者の登録を開始し、東京、岡山及び関西地区の8施設で13名のACH小児患者を組み入れ、2024年12月に最終症例の観察期間が完了いたしました。第2相臨床試験については、2023年4月に投与を開始、コホート1(低用量群、6名、1回/週の0.3mg/kg皮下投与、26週)とコホート2(高用量群、6名、1 回/2週の0.6mg/kg皮下投与、26週)の2群に分けて実施し、2025年9月に投与が完了いたしました。第2相臨床試験を完了した12名のうち11名は、同一投与条件の第2相長期投与試験に移行しており、継続して被験薬の有効性及び安全性を評価しております。
試験結果の概要:コホート1については、途中休薬の1名を除いた5名のうち、3名で被験薬投与前(観察試験)に比較して身長の伸展速度の増加が確認され、うち2名は、+4.6、+3.3cm/年と顕著に増加しました。コホート1で顕著な身長の進展速度の増加が確認されていた2名においては第2相長期投与試験に移行しておりますが、2年間投与を継続した時点においても身長の伸展速度増加効果が持続されていました。 コホート2については、6名のうち、5名で被験薬投与前(観察試験)に比較して、身長の伸展速度の増加が確認され、うち2名は、+5.0、+2.0cm/年と顕著に増加しました。第2相臨床試験の平均身長伸展速度は、コホート1、コホート2でそれぞれ+1.5、+1.4cm/年であり、現在ACH 治療薬として承認されているボックスゾゴ®(以下、「既承認薬」という。)の平均身長伸展速度+1.7cm/年※2と同程度となりました。また、既承認薬の治療歴を有する小児患者2名において、umedaptanib pegol投与後に身長伸展速度が、+1.1、+2.0cm/年改善しております。 なお、これまでにumedaptanib pegolを投与したACH小児患者において、安全性に関する懸念は発生しておりません。当社は、コホート1での結果に基づいて、厚生労働省に対して、希少疾病用医薬品指定(ODD)申請を行い、2025年5月に指定承認されました。これに伴い、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)に対して、助成金の交付申請を行い、助成金を受けることが承認されております。現在、第2相臨床試験の成績等を考慮して、第3相臨床試験を実施する計画(1回/週 の1mg/kg皮下投与、対象患者年齢:2歳程度~)を検討しており、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に相談をしております。
【日本での前期第2相試験の概要】New
軟骨無形成症を対象とした治験のご紹介【日本での臨床試験に関する情報】
1.第1相臨床試験
https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2080225249
2.前期第2相観察試験
https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031220113
3.前期第2相臨床試験
https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031220291
4.前期第2相臨床長期試験
https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031220338
文献
上記の臨床試験一覧、およびClinicalTrials.gov(米国)、jRCT(日本)に公開している当社が実施する臨床試験の情報は、情報の開示を目的としたものであり、製品を広告・販売促進することを目的としているものではありません。